nitro_idiot’s diary

すべてフィクションということになっています。

2012-01-01から1年間の記事一覧

眠る女生徒

病院で、眠りにつくときの気持ちは、面白い。夏の雑木林で蝉時雨の只中に一人ぽつりといて、私を探しているのかしら、遠くで知った誰かが私を探して叫んでるのに、どこかすぐに出て行っては面白くないような、変ないたずら心で、だけど懸命に隠れるのも変な…

愚直

会社の飲み会の席で「今のチームはどうですか」と聞いた彼女とはつい数週間前まで同じチームで仕事をした仲だった。「今のチームは……」思うことをかき集めつつ、まずは、と口に出したのは上司のことだった。「彼は、すごいと思います。……本当に」するとみん…

ホタル

夜の空気に触れながら河原を歩いていると、視界の上端で淡い光が走った。月の出ない夜であった。見上げてそのまま立ち尽くしていると、再び光の線が走った。ホタルである。よくよく水辺を見渡すと、他にも数個の点滅を見つけた。ホタルを見るのはとても久し…

被災地を訪れて

去年三月十一日の東北地方太平洋沖地震があったとき、僕は六本木のオフィスで仕事をしていた。東京も震度五強で、建物が倒壊するほどではなかったけれど、その日は電車が一晩中動かず、会社の椅子で眠った。先日、その日に会社のテレビで見た大津波の町、宮…

京都市動物園

世界片

去年の四月にマイクロ一眼を買った。携帯のカメラで風景を撮っていた僕にとっては良すぎるカメラだ。それまでほとんど趣味と言えるもののなかった僕にとって初めての趣味だった。カメラを買うまでは、そんなにたくさん撮ることがあるだろうかと考えあぐねて…

本屋に行っての帰り道、すぐに帰っては勿体無いと思い、あてもなく家とは反対の方角へ向かった。週末の買い物客の多い河原町から小道に入り、騒がしい木屋町通を抜けると鴨川がある。河原への階段を下りた。冷たい空気が周りを満たす。僕は冬がそれほど嫌い…

僕とニトリと深町英太郎

去年、僕は歳をとるのをやめた。正確に言うなら誕生日を捨てた。自分の誕生日が嫌いだったからだ。誕生日が来る数カ月前にウェブ上にあるさまざまなサイトから、自分の誕生日の情報を神経質に消して回った。個人ブログ、Twitter、Google、Facebook、GitHub、…