nitro_idiot’s diary

すべてフィクションということになっています。

コーヒー

僕はコーヒーが好きなのかもしれない。

いや、それほど頻繁に飲むわけでもないし、豆の種類なんて興味もない。喫茶店には割と行くほうだけど、おいしいコーヒーを飲むというより落ち着いた空間を求めて行くことが多い。

僕は、たぶんコーヒーを飲む行為じゃなくて、コーヒーそのものが好きなんだろう。どうしてかはわからない。けど、コーヒーについての言葉の断片はいくつも思いだせる。

いくら注いでもコップが一杯にならないと思ったら、コーヒーだったはずの液体が、いつの間にか夜に変わっているのだった。
川上弘美 「蛇を踏む」

この前、Tumblrで流れてきた言葉とか。

私たちはそれから、ちかごろどんなコーヒーを飲んだかについて報告しあった。私たちは悪魔のように濃いコーヒーが好きで、それが飲めるところをいつも探している。
猫とコーヒーと人工的な嗜好 - 傘をひらいて、空を

京都に越してから、MacBookを抱えて喫茶店をいくつか回った。その中でも河原町三条にある六曜社のコーヒーはとてもおいしかった。


六曜社 — はてなココ

豆とその挽き方がずらりと並ぶメニューを、ひと通り知った顔で眺めてから、「酸味の弱いコーヒーはどれですか?」と聞く。店員さんはメニューを指さして「この辺りは酸味が弱めです」と答える。豆の中から聞いたことのある名前を選んで注文した。何を頼んだかはもう忘れてしまったけど。

むしろコーヒーの豆や挽き方をよく知らないからこそ、その裏に広がる何か魅惑的な世界を想像して楽しんでいるのか。

外でおいしいコーヒーを飲んでしまうと、会社で飲む缶コーヒーが泥水のようだ。今日も一口だけ飲んで放置された缶コーヒーと、その中にまだあるだろう闇を鬱陶しそうに眺めてる。