nitro_idiot’s diary

すべてフィクションということになっています。

僕とニトリと深町英太郎

去年、僕は歳をとるのをやめた。

正確に言うなら誕生日を捨てた。自分の誕生日が嫌いだったからだ。誕生日が来る数カ月前にウェブ上にあるさまざまなサイトから、自分の誕生日の情報を神経質に消して回った。個人ブログ、TwitterGoogleFacebook、GitHub、mixi、そして、はてな。今まで自分がこれほどのサービスで当たり前のように誕生日を入力していたことに驚いた。

そうして時は経ち、いよいよ誕生日を迎えて僕は二十四歳になった。誰にも知られてはいけない自分だけの秘密を抱えることは愉快だった。そのとき、はてなに転職して一カ月が経っていた。

はてなでは、社員同士をお互いはてなIDで呼び合う文化がある。

「『nitro_idiot』って長いね。何て呼べばいい?」
「何でもいいです。『にとろ』とかでしょうか」
「んー……。にとろ……。nitroとidiotで……『にとり』君ってどう?」
「……なんだか家具屋さんみたいな名前ですね」

「深町さん」と呼ばれることに慣れていた僕は、最初「にとり君」と呼ばれることに違和感があった。ただ、それも徐々に慣れてきて、最近では自ら意識して使い分けることすらしている。今までの僕が深町英太郎で、これからの僕がnitro_idiot。

東京の深町英太郎と、京都のnitro_idiot。社会的な深町英太郎と、非社会的なnitro_idiot。理想主義な深町英太郎と、現実主義なnitro_idiot。はてなブログにいるのはnitro_idiotで、ダイアリーに住んでるのは深町英太郎。もうしばらく更新していないけれど。

パラレルワールドの溝に落ちた僕は、新年に皆が掲げる華々しい抱負をよそに、ずっと終わらないように思える世界で、一人だけ、二〇一一年十三月を迎えた。