nitro_idiot’s diary

すべてフィクションということになっています。

京都の月

「お義父さんに似てるよね」と彼女に言われる。短気で享楽主義な父に似ていると言われて喜べない僕は「似てない」とぶっきらぼうに言って渋い顔をする。すると笑って彼女は言うのだ。「そういう顔したとき、お義父さんに似てるよ」

父は昔から、いつも大げさな人だった。少しでも体の不調があれば、ガンかもしれん、などと大騒ぎするのだ。「背中に痛みがある」というだけで想像を膨らませて病院に行く。さらに異常がない、と言う医者の言葉まで疑って精密検査までしてもらうこともあった。

そんな姿を見て僕は「みっともない」と思って育ってきたが、この性格のおかげか父は今まで大病を患ったことはなさそうだ。

僕は逆に、あまり病院にかかりたがらない。何か前兆のようなものを見つけても、気のせいだと思って数日様子を見る。父のように大騒ぎはしたくないのだ。

ただ、皮肉なことに家族で一番病弱なのは僕だった。


こっちに引っ越してから月をよく見る。京都は建物が低く、夜の街明かりも少ないから、夜に外を出歩くときはどこかからこちらを覗いてる。

そんな月を眺めながら、ふと、月は自分の心を反映するのではないかと思った。自慢気な日もあれば不安気に見え隠れすることもある。この前の満月は、薄い雲をまとって自信気に空高く輝いていた。

昨日病院から帰るときはもうすっかり日も落ちていた。歩いて駅まで行く途上、丸い月が高架の上で見え隠れした。濃い橙に染まる一回り大きな月は、弱った僕を上から睨んでいた。

「あの月怖い!こっち睨んでる!」

事は変われど、つまらないことで大騒ぎする性格は受け継いだのか。